11月12日(土)全国公開 劇場用長編アニメ「この世界の片隅に」公式サイト
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ようやく映画館で観てきた。
原作は持って読んでいた。映画を観に行く前に読み直すかどうか迷って、読まなかったのだが、読んでいても良かったかも知れない。
あちこちで絶賛のコメントをみかける。そもそも漫画が傑作なのだから。だが映画は、漫画をおそろしいほどに忠実にアニメ化しながら、新しい別の作品になっていた。すばらしい。すごい。すさまじい。映像が美しいとかの次元を超えている。またここにひとつの新たなアニメーションの姿。漫画が動いているのではなく、絵が動いている、これこそアニメーション。そもそも原作の漫画も、絵が漫画になっている、というボーダーのような雰囲気だが。漫画ならではの緩急もここまでうまくアニメ化しているのはすばらしい。この人なら、手塚治虫の火の鳥のアニメ化が、テンポ良くできそう。
キャストもすばらしかった。イケボ2トップの細谷佳正さんと小野大輔さん。小野Dさんが予想外に良かった。細谷さんもいつもよりは好きな感じ。ほかの台詞の少ないキャストも、しびれる。のんことのーねんちゃんはそりゃあいいだろうとは思っていたが、予想をもう一つ二つずっと上回って良かった。あんがい低く響きがある声なのだ。声だけでここまでできるということは、彼女は天才に近いと思う。もっと場数を踏んでいろんな映画や舞台にたてば、のびやかな容姿もともなって、どんな女優になることだろう。がんばってなんとか仕事ふやして〜〜〜…経験つまないと原石のママでおわっていまう。
いままでに観たことがないアニメなのかもしれない。絵が魂をこめられて動く。それがアニメーション。新しい扉が開いた。それを劇場でみることができた。アニメーションの可能性も無限。
家にかえって原作をよみかえして、よく2時間にまとめたなあ、と舌を巻いた。淡々とした積み重ねの作品で、全体のストーリーはこれといってない。映画は映画になっていた。すごい。アカデミー賞脚色賞あげたい。
すごい、すごいと感想のツイートをみかける。物語もアニメも、「すごい」しかでてこないのが、映画を観てからだとよくわかる。行く前は「そんなに…?」とちょっと怪しんでた。たとえ原作を読んでいても、自分がいままで観たことがなかったものが、圧倒的にそこにあるのだ。圧倒のされた方も、いままでに体験したことがない。「圧倒されるでしょ〜〜??」じゃないのだ。だから「すごい」っていっちゃう。
同じ作者の『夕凪の街 桜の国』を読んだときも圧倒された。いままで知っていたのに知らないことが描かれていた。反戦ものは正直苦手だったのだ。だがこの作品は違った。これが、こういうことこそが、もっとはやく、たくさん表現されなければなかったのだ。歳月を経なければ、描かれなかったのかもしれないが。これを読んでさぁ反戦運動ってわけではなく、自分のなかにある平和への灯火を小さくとも確信に満ちた灯りにする。
こんなすばらしい映画がたったの1800円でみられる! 安い!!
漫画は1000円以下で、前作と4冊買っても3000円くらいで!、読める! 安い!
(タマフル方式)
追記:
- あと、鳥が、鳥がめちゃくちゃいいので…。
- 小野Dさんの演技が、ちょっと浮世離れしているのが逆に良かった。あそこでは彼は非日常で異質な陽気な存在であるから。ほがらかなイケボが故に、追憶もまじえてせつなさとかはかなさが明るくよみがえってすぎていくようでぢわわわ
- 映画の声の響きの印象がとても耳にのこっているのがふしぎな感じ。声はどうやって演出されたのだろーか。
以下ネタバレあり
細谷さん演じる周作さんは、物わかりがよすぎる的コメントをネットでみかけた。そこに大きなエピソードがひとつカットされている。あれがあるなしで彼に対する印象はガラリとかわってしまうのだが。それでも、静かに言葉と響きを積み重ねて行くような語り口が、とても良かった。小野Dさんも細谷さんも、いままでみたアニメのどのお仕事よりもとてもよかった。小野Dさんはスノウのばかっぽいのが苦手で苦手で他のキャラクターでも声をきくときイライラしていたけど、水原さんは空気を読まない感じとか(あえてそうしている)、めちゃくちゃよかった。細谷さんもただのイケメンキャラの印象が強かったので、今回の役はとても良かった。水原さんの語りは世界が遠くへ広がるようにおもえたし、周作さんのことばはよりそってお互いを励ましにぎやかしささえあうものが薄い層のようにふんわり重なって増えていくように思えた。
最近の人気のある声優さんは、うわっつらな演技をリクエストされてやっているのか、そういう演技しかできないのかわからない。人気者ほどいろんな作品にでるから駄作も多い(スノウは駄作ではないがあのゲームのキャラクターはどいつもこいつもイライラすることこのうえない)。本人だって機会がなければわからないだろうし、そこまで熱心にアニメを見ない人にはもっと伝わらない。この作品はふたりのキャリアのきらきらスターではなくとも、輝きを失わない確かな光であってほしい。